魔人、ケイオス。
大戦後生まれた魔人の中では最も強力な魔人の一人。
化物でありながら誰よりも人間らしく、全てを支配しようとする生粋の魔人である。
彼が関わったと言われる事件は魔人犯罪でも最も大きなものに入る。


例えばへカトンケイル事件だ。
隻眼の鬼神、ヘカトンケイルが突如アメリカに出現し、街を破壊し始めたのだ。
ミサイルによる攻撃は通じず、危うく核ミサイルの使用にまで発展しかけたこの事件は、ヘカトンケイルの失踪により一応の解決を迎えた。
噂ではケイオスがテストしただけという事であるが、詳細は不明である。
しかし事件後、ケイオスは友人の前でこのような事を言っていた。
「あの遊び、楽しんでもらえたかい?」と。
彼の遊び好きがよく分かるエピソードである。


そんなケイオスの元に手紙が届けられた。
内容は一行だけ。こう書かれていた。


「今宵、貴公の命を貰い受ける」

ケイオスは笑い飛ばした。
ヘカトンケイルを有し、魔人でもある彼を殺そうとするバカがいようとは。
軍隊でさえ、彼を殺せなかったと言うのに、この世の中に自分を殺そうとするものがいる。
面白かった。
だから、彼はその人物を待ち受ける事にした。

夜。
ケイオスは自らが雇ったボディガード達を屋敷に配置していた。
彼等には発砲許可も与えており、その銃に収めた弾丸は全て対魔人用。
当たれば魔人とてただでは済まない、この世で最も強力な弾丸である。


そのケイオス本人はと言うと、書斎にいた。
彼は魔人でありながら、魔術師であり、ここにある魔術書を駆使すればどんな敵であっても対処できる。
そう思ったからだ。
彼が有する魔術書を駆使すれば、この地球のどこにいようとも攻撃出来る。
ヘカトンケイルに組み込めば魔人の軍隊であろうとも蹴散らす事が出来る。
故に選んだ魔術の城。
しかし彼には誤算があった。
天井が突如崩れる。
落ちる瓦礫が魔術書を押しつぶす。
そして黒い甲冑の騎士が、彼の前に姿を現した。
「……」
今、ケイオスは思った。
この敵に魔術も異能も通じない。
なぜなら。彼の能力である「グラムサイト」を使っても、弱点を見つけられなかったのだから。
グサリ、と彼の胸に剣が突き刺さる。
悲鳴を上げる事も無く、呆然と騎士を見つめた。
何の感情も無く、人を殺せる人間がいようとは。
彼は最後に思った。
死神とは本当にいるのだと。
そしてそれは神の騎士であるのだと。


騎士は行く。
魔人を狩るために。
使命と言えるだろう。
誇りと言えるだろう。
血に染まり、黒く染まったその鎧。
感情を封印したその心。
故に彼はこう言われた。
「死神騎士」と。